同棲

わたしの住んでいる部屋って窓が西を向いているんですよね。
しかも掃き出し窓で開口部が大きいんです。さらに北西でも南西でもなく真西です。関西の方を真っ正面からとらえているわけです。わたしも福岡生まれなので、これは有り難いと。故郷を向いて生活ができると。そう思って契約したわけなんですが、東京の真西には福岡がなくて、福井や鳥取あたりがせいぜいでした。
それで真西なんで夕日が暑いんです。
夏は本当に太陽なんてものは兵器じゃないかってくらい暑いです。エヴァンゲリオンか真西の太陽かってくらいの決戦兵器です。
普段は本が焼けないように遮光カーテンで締め切っているんですが、そろそろ日の光のない生活を改善しないと気持ち的に良くないんじゃないか。鬱々としてホールデンのように旅に出てしまうんじゃないか。そう思ってたまに兵器の侵略を許していたんです。でもダイレクトに紫外線が飛び込んでくるのはあまりにも恐い。わたしの肌はビール瓶くらいに焼けたっていいんですが、本の背表紙が焼けるのはどうしても許せない。
そう思ってフウセンカズラを植えたんです。グリーンカーテンです。しかも室内です。窓際に鉢を並べて観葉植物よろしく室内で育てました。
そしたら、外で植えているときはあまり気にならなかったんですけど、花が落ちて足元がとにかく凄いことになるんです。毎朝びっくりするくらい花が落ちていて、これが全部五百円玉だったら働かなくていいのになって、港区のタワマンに住めちゃうなって、そのくらい雪景色のように白い花が床いっぱいに敷き詰められるんです。
流石にそのままにするのはよろしくなかろうと、二、三日に一回掃除機をかけてるんですけど、ある日、黒いなにかが雪景色のなかで動いたんです。フウセンカズラの花と同じくらいのサイズで黒いなにか――ネコハエトリグモです。
五百円玉サイズを超えない蜘蛛には寛容なわたしです。
ましてやネコハエトリグモなんて液晶モニタに現れたらマウスカーソルを追っかけるようなかわいらしい愛玩蜘蛛です。
ところが作業モードの手は止まりません。あっ、と思った頃には掃除機のノズルに吸い込まれてしまいました。焦ったわたしはすぐさまスイッチを切り、掃除機を開け紙パックを取り出し、中身をぶちまけました。すると元気なネコハエトリグモがぴょんと飛び出してきました。
わたしがダイソン使いじゃなくて助かったなと。紙パック式しか買えない生活レベルでよかったなと。そう言って部屋の反対側へ放してやりました。
この部屋にはわたしとあなただけが住んでいる。

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