八月が終わりました。
終わってしまったと言っていいと思う。
失念していたんです、月末31日が土曜日だということを。
月末に何があるかといえば、我が賃貸中のお部屋の家賃支払い締め切り日です。月末までにお家賃を収めることを条件に翌月部屋にいていい権利を得ているわけです。
銀行営業が金曜日までということは――、
あれ? あれ? 待てよ、あれぇ? あれ? おかしいですね。
あれ? もしかして滞納?
わたしの脳内に棲む加藤一二三先生がつぶやきだします。
気が付いたのは金曜日の終業後。余裕で、かなりの余裕で、15時を回っています。
気が付いたのは金曜日の終業後、友だちと待ち合わせた世界の山ちゃん。余裕で、かなりの余裕で、なすすべも有りません。
詰んだ。
詰めろに気が付かずに詰んだ。
長い間培ってきた大家さんとわたしとの信頼関係が頓死。
信頼関係の奴が、相手玉の詰みに気付いた羽生先生のように渋い顔をしてわたしを見ている。
そんなとき目の前の友人がね、言うんです。
「ネットバンクで振り込んでスクショをメールすれば」
詰めろ逃れの詰めろ。
ワンチャンあるか!?
わたし、abemaトーナメントの終盤くらいの手の速さでスマホを手に取った。
菅井先生の時間切れ二秒前ってくらいせわしなく取った。
あ、
ネットバンクのアプリなんか入ってない。
絶対的なセキュリティを考慮して、わたしは自宅のデスクトップからのみネットバンキングすると、振込ングすると、あっちのお金をこっちに移動しングすると、心に決めてた。社会人一年目に決めてた。
目の前で手羽先を貪っている友だちに、
まるでウォールマリアに侵入してきた巨人のような悪辣さで手羽先を貪っている友だちに、
「か、代わりに振り込んでくれない???」
「え、なんで」
友だちの上唇と下唇の間からはエレンのお母さんの骨が飛び出してた。お母さんの大腿骨が飛び出してた。
こいつには言っても無駄だ。
「だいたい振込先分かるの?」
分からない。
そんなもの覚えていない。
円周率の32桁目の方がまだ可能性がある。
3.1415926535897932384626‥‥
763
南無三
しようがないので嫌なことを忘れるほど飲んで二日酔いの頭で土曜日に振り込みました。
なんか令和の銀行は土曜に着金するらしいっす。
知らなかったっす。
Z世代に感謝。